事例記事とは、顧客が自社の商品やサービスを導入し、どのような課題に、どのように取り組み、どのような結果が得られたかを、顧客の立場と事実に基づいて記述する記事である。導入事例、お客様の声、活用事例など名称は異なるが、共通する要素は、語り手が自社ではなく顧客であることと、内容が特定の取引や利用の経緯に基づくことである。そのため事例記事は、一般的な解説記事とは異なる工程を必要とする。顧客の名称、発言、写真、数字は、いずれも顧客に帰属する情報であり、自社が自由に使える素材ではない。本記事では、掲載の許可の取り方、数字の出し方、構成の型、固有名詞を出せない場合の書き方を順に整理する。なお、本記事は一般的な手順の解説であり、個別の表示が法令に適合するかどうかの判断を示すものではない。
事例記事で最初に決めること
執筆に入る前に決めるべき事項は、誰の事例を、どの範囲で、どの媒体に載せるかである。対象とする顧客、取り上げる商品やサービスの範囲、掲載先が自社サイトか外部媒体か、掲載期間の想定、写真や図表の有無を、依頼の段階で具体化する。ここが曖昧なまま取材を進めると、原稿が完成した段階で、想定していなかった範囲の使用が判明し、許可を取り直す事態が生じる。範囲を先に決めることは、顧客側の確認の負担を減らす意味でも重要である。
もう1つ決めておく事項は、記事の目的である。事例記事の目的は、読み手が自社の状況と照らして導入を検討できる材料を提供することにある。効果を誇張して問い合わせを集めることではない。目的をこのように置くと、書くべき内容は、派手な結果の数字ではなく、課題の具体性、取り組みの過程、結果の条件という順に定まる。この順序が、後述する構成の型と数字の出し方の土台になる。
許可の工程:何を、どこまで、どのように確認するか
1. 掲載の許可は項目ごとに取る
掲載の許可は、事例記事にすること自体への同意として一括で取るのではなく、公開される情報の項目ごとに範囲を確認する。最低限確認すべき項目は、次のとおりである。第1に、社名や団体名を出すか、出す場合は正式名称と表記である。第2に、担当者の氏名と役職を出すかである。第3に、顔写真、事業所や現場の写真、画面の画像などの画像素材を使うか、その範囲である。第4に、売上、件数、時間、割合などの数字を公開するか、公開する場合はどの数字を、どの単位と期間で出すかである。第5に、発言の引用をどの範囲で使うかである。項目ごとに可否が異なることは珍しくなく、社名は可だが数字は不可、写真は事業所の外観のみ可といった形になる。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 名称 | 社名・団体名の有無、正式名称、表記 |
| 人物 | 氏名、役職、所属の出し方 |
| 画像 | 顔写真、現場写真、画像素材の範囲 |
| 数字 | 公開する数字の種類、単位、期間、条件 |
| 発言 | 引用する発言の範囲と整え方 |
| 掲載先と期間 | 掲載する媒体、二次利用の有無、掲載期間 |
許可の範囲には、掲載先と二次利用も含まれる。自社サイトへの掲載を前提に許可を得た事例を、広告素材、営業資料、外部媒体への転載に流用することは、元の許可の範囲を超える使用に当たる可能性がある。使用する媒体や形式が増える場合は、その都度、追加の確認を取ることが原則である。
2. 口頭で済ませず、記録に残す
許可は口頭のやり取りで済ませず、記録に残す。記録の形式は、書面、電子メール、確認フォームなど、後から双方が内容を確認できるものであればよい。記録には、許可を得た日付、許可した相手の氏名と立場、許可された項目と範囲、条件がある場合はその内容を残す。担当者が異動や退職で交代した場合でも、記録があれば、許可の範囲をめぐる認識の相違を防ぐことができる。逆に、記録のない許可は、時間が経過した後に範囲を確認する手段がなく、掲載の継続自体が不安定になる。
3. 掲載前の原稿確認を相手に取る
原稿は、掲載前に必ず相手の確認を取る。確認の目的は2つある。1つは事実確認であり、名称、役職、日付、数字、経緯に誤りがないかを確かめることである。もう1つは公開範囲の確認であり、公開を望まない情報、表現を変えてほしい箇所が含まれていないかを確かめることである。取材時に話した内容であっても、文章として公開される段階では受け取り方が変わることがあるため、取材時の承諾をもって原稿確認に代えることはできない。
原稿確認を依頼する際は、確認してほしい項目を明示し、修正の反映方法も伝える。事実関係の誤りはそのまま修正し、表現への要望は、記事の事実性と読み手への正確さを損なわない範囲で反映する。確認を経ていない原稿を公開することは避け、確認が得られない場合は、掲載を見送るか、確認済みの範囲のみに内容を限定する。
4. 約束した範囲を超えて使わない
公開後も、許可の範囲は効力を持つ。約束した範囲を超えた使用をしないことが原則であり、具体的には、許可されていない媒体への転載、発言の一部分だけを切り取って別の文脈で使うこと、数字だけを取り出して広告の見出しに使うことなどが該当し得る。また、相手から修正や掲載終了の申し出があった場合の対応手順も、あらかじめ決めておく。申し出への対応が遅れると、事実関係の問題がなくても、取引先との信頼関係が損なわれる。事例記事は、許可の上に成り立つ記事であり、許可の管理は公開後まで続く工程である。
構成の型:背景と課題、取り組み、結果、相手のひと言
事例記事の一般的な構成は、背景と課題、取り組み、結果、相手のひと言の4つの部分からなる。この型は、読み手が自社の状況と照らして読むための順序になっている。結果だけを先に示す構成は、条件の異なる読み手に誤った期待を持たせるおそれがあるため、課題と過程を前に置く。
| 部分 | 書く内容 | 欠けると起きること |
|---|---|---|
| 背景と課題 | 顧客の属性、規模、導入前の状況、困っていたこと | 誰の、どのような状況の事例か分からない |
| 取り組み | 何を選び、どのように進め、何に苦労したか | 過程が見えず、結果の条件が分からない |
| 結果 | 条件を添えた数字と、数字以外の変化 | 再現できる条件が判断できない |
| 相手のひと言 | 担当者自身の言葉による評価と、今後の展望 | 書き手の要約だけになり、実感が伝わらない |
背景と課題の部分では、顧客の業種、規模、体制といった属性と、導入前の状態を具体的に書く。課題は、書き手の推測ではなく、相手が実際に困っていたこととして記述し、可能であれば導入前の数字や状況を添える。取り組みの部分では、導入したものだけでなく、検討の過程、実施した手順、期間、うまくいかなかった点と対処を書く。過程のない事例は、結果の条件が分からず、読み手が自社で再現できるかを判断できない。結果の部分の書き方は次節で詳述する。相手のひと言は、発言した本人の言葉として、原稿確認を経た範囲で引用する。書き手が発言の意味を変える要約や、発言していない内容の付け加えを行ってはならない。
構成の例を、作例として示す。次の一文は書き方の例示であり、実在の顧客の事例ではない。「作例:○○社は、問い合わせ対応の記録が担当者ごとに分かれ、引き継ぎに時間を要していた。そこで対応記録の形式を統一し、週に1回、記録の棚卸しを行う運用から開始した」。このように、属性、課題、取り組みの入口までを1つの流れで示すことが型の基本である。実在しない顧客の声や数値を、実在のものとして書くことは行ってはならず、例示が必要な場合は、本記事のように作例であることを明示する。
数字の出し方:対象、期間、母数、条件を添える
事例記事の数字は、結果の印象を強めるための装飾ではなく、条件とともに読まれるべき事実である。「問い合わせが増えた」という記述だけでは、何が、どの期間に、どの程度増えたのかが分からない。数字を出すときは、次の4点を添える。第1に対象であり、何を数えた数字かを示す。第2に期間であり、いつからいつまでの数字かを示す。第3に母数であり、割合の場合は分母が何件、何人、何回かを示す。第4に条件であり、集計の方法、対象の範囲、結果に影響した他の要因の有無を示す。
変化を示す場合は、何から何へという形で、変化の前後の数字を併記する。割合の増減だけを示すと、元の規模が小さい場合に変化が過大に見えることがある。絶対数と割合を併記し、期間をそろえて比較することが基本である。都合の良い期間だけを切り取ること、母数の小さい数字の割合だけを強調すること、複数の要因が関わる結果を単一の取り組みの成果として断定することは避ける。結果に影響した可能性のある他の要因がある場合は、その旨を本文に書く。
| 不十分な書き方 | 条件を添えた書き方 |
|---|---|
| 作例:問い合わせが大幅に増えた | 作例:問い合わせフォーム経由の件数が、導入前の3か月は月平均12件、導入後の3か月は月平均18件であった |
| 作例:作業時間が半分になった | 作例:対象業務1件当たりの処理時間が、計測した20件の平均で、導入前は約40分、導入後は約22分であった |
| 作例:満足度が高い | 作例:利用者アンケートの回答31件のうち、肯定的な回答が24件であった。実施期間と配布方法は記事内に記載する |
上記の表の数字はいずれも作例であり、実在の顧客の実績ではない。実務では、自社の記録や相手の提供資料など、裏付けとなる記録と数字を照合し、出典となる記録の種類と保管場所を社内に残す。数字の裏付けを後から示せない場合は、その数字は掲載しないという判断も必要である。この点は、次節の法令との関係にもつながる。
景品表示法との関係:優良誤認と根拠資料
事例記事は、自社の商品やサービスに関する表示の一種として読まれる場合があるため、景品表示法との関係を押さえておく必要がある。不当景品類及び不当表示防止法、いわゆる景品表示法の第5条第1号は、商品や役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示す表示などを、不当に顧客を誘引し、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるものとして禁止している(出典:e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」第5条、消費者庁公表資料に収録された同法抜粋)。実際の結果よりも良く見える数字の出し方や、条件を省いた効果の示し方は、この優良誤認表示との関係で問題になり得る。
関連する仕組みとして、不実証広告規制がある。同法第7条第2項は、措置命令に関し、表示が第5条第1号に該当するかどうかを判断するため必要がある場合に、表示をした事業者に対し、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、資料が提出されないときは、その表示を第5条第1号に該当する表示とみなすことを定めている(出典:e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」第7条、消費者庁公表資料に収録された同法抜粋)。消費者庁の運用指針は、合理的な根拠と認められるためには、提出資料が客観的に実証された内容であることと、表示された効果や性能と実証された内容が適切に対応していることの2点が必要であると示している(出典:消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針、不実証広告規制に関する指針」)。
本節の記述は、法令と公表資料の内容を一般的に整理したものであり、個別の記事や表示についての法的判断ではない。ある事例記事の数字が優良誤認に当たるかどうかは、表示の内容、根拠資料、取引の実態などにより個別に判断されるものであり、本記事では断定しない。判断に迷う場合は、公開前に、法令の最新情報の確認と、必要に応じた専門家への相談を行うことが望ましい。
実務上の帰結は明確である。事例記事に出す数字については、対象、期間、母数、条件を本文に添えるだけでなく、その裏付けとなる記録を、公開の時点で自社が保持している必要がある。1件の事例の結果を、すべての顧客に当てはまる結果であるかのように一般化する書き方、根拠のない最上級の表現、効果を約束する表現は避ける。相手の発言の引用についても、好意的な部分だけを切り取り、全体の評価と異なる印象を与える編集は行わない。
固有名詞を出せない場合の書き方
許可の交渉の結果、社名や氏名を出せない場合がある。その場合でも、属性の範囲で表現することにより、事例としての情報価値の一部は保持できる。たとえば、業種、地域の範囲、従業員規模の範囲、導入したサービスの種類といった属性を示す方法である。ただし、属性の組み合わせにより相手が特定されるおそれがある場合は、属性を絞りすぎない配慮が必要であり、特定を避けることと、許可された範囲を守ることが優先される。
固有名詞を出せない場合、数字の説得力は変わる。読み手は、数字の出どころを名称により照合することができず、検証の手がかりが属性と条件の記述だけになる。そのため、匿名の事例ほど、対象、期間、母数、条件の記述を丁寧にし、裏付けの記録を自社で保持していることを前提に書く必要がある。逆に、匿名であることを理由に数字の条件を省くことは、説得力をさらに下げるだけでなく、前節の根拠資料の問題にもつながる。固有名詞も条件も示せない場合は、その事例を記事として公開せず、内部の参考資料にとどめる判断も選択肢である。
公開前の確認手順
公開直前には、次の項目を1つずつ確認する。確認は執筆者だけで完結させず、許可の記録と原稿を照合できる担当者が行うことが望ましい。
- 許可の記録と原稿の内容が一致しているか。名称、氏名、写真、数字、発言の範囲に超過がないか
- 掲載前の原稿確認を相手から得ているか。確認の日付と相手を記録しているか
- 数字に、対象、期間、母数、条件が添えられているか。前後の数字が併記されているか
- 数字の裏付けとなる記録を保持しているか。作例と実在の数字が混同されていないか
- 効果を約束する表現、最上級の表現、1件の結果を一般化する表現がないか
- 発言の引用が、意味を変える切り取りや付け加えになっていないか
- 掲載先、二次利用、掲載終了の申し出への対応手順が決まっているか
この確認で不備が見つかった場合は、公開を急がず、許可の取り直しや数字の差し替えを行ってから公開する。事例記事は、公開の速度よりも、許可と根拠の確かさが記事の価値を決める。
まとめ:事例記事は、許可と条件の上に成り立つ
事例記事の書き方は、許可、構成、数字の3点に集約される。許可は、名称、人物、画像、数字、発言、掲載先の項目ごとに範囲を確認し、口頭で済ませず記録に残し、掲載前に原稿確認を取り、約束した範囲を超えて使わない。構成は、背景と課題、取り組み、結果、相手のひと言の順に置き、読み手が自社の状況と照らして判断できる形にする。数字は、対象、期間、母数、条件を添え、何から何へという形で示し、裏付けとなる記録を保持する。固有名詞を出せない場合は属性の範囲で表現し、その分だけ条件の記述を丁寧にする。架空の事例を実在のものとして書くことはせず、例示が必要な場合は作例であることを明示する。この手順を守る範囲で書かれた事例記事は、誇張に頼らずに、導入を検討する読み手への材料になる。
なお、本記事を公開しているキジカルテは、SEO記事の制作と分析を扱うサービスであり、顧客の事例を扱う場合は許可と原稿確認を経た範囲でのみ掲載し、数字には条件と根拠の確認を行うことを工程の前提としている。キジカルテ自身の顧客事例を本記事に掲載することはしておらず、サービス内容の詳細はサイト内の案内を参照されたい。
出典
- e-Gov法令検索「不当景品類及び不当表示防止法」第5条、第7条
- 消費者庁公表資料「不当景品類及び不当表示防止法(抜粋)」および「景品表示法による表示規制の概要」
- 消費者庁「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針、不実証広告規制に関する指針」